CFD解析の全体像
CFD解析は、物理的な風洞試験を行わずに、コンピュータ上で空気の流れを計算する手法です。 車体まわりの圧力分布、流速、抗力・揚力係数などを数値的に求めることで、 実車を作る前に空力性能を評価・改善できます。
CFDの基本的な考え方はシンプルです。 車体を取り囲む空間を非常に細かな「セル」に区分けし、 それぞれのセルで流体の物理量(速度・圧力・温度など)を計算します。 自動車の外部空力解析では、このセル数は数千万〜数億に達します。 セルが細かいほど精度は上がりますが、計算コストも比例して増大するため、 どこにメッシュを集中させるかが解析の設計力に直結します。
STEP 01
プリ処理
PRE-PROCESSING
STEP 02
ソルバー
SOLVER
STEP 03
ポスト処理
POST-PROCESSING
支配方程式 ── ナビエ・ストークス方程式
CFDが解いているのはナビエ・ストークス方程式(Navier-Stokes Equations)です。 これは流体の運動を記述する偏微分方程式で、ニュートンの運動の第二法則を流体に適用したものです。 質量保存(連続の式)、運動量保存、エネルギー保存の3つの方程式から構成され、 流体の速度場と圧力場の時間的・空間的な変化を記述します。
この方程式は非線形であり、一般的な形では解析解(数式で解ける解)が存在しません。 そのため、空間をセルに分割して離散化し、反復計算によって近似解を求めるのがCFDの基本戦略です。 自動車空力では乱流が支配的なため、乱流モデル(k-ω SSTやSpalart-Allmarasなど)を組み合わせた RANS(Reynolds-Averaged Navier-Stokes)解法が広く使われています。
STEP 01 ── プリ処理(メッシュ生成)
CFD解析の最初のステップは、計算空間のメッシュ(格子)を作成するプリ処理です。 入力となるのは車体のジオメトリデータで、 CATIAなどのCADソフトから出力されるSTP(STEP)ファイルや、 3Dスキャンから得られるSTL(三角メッシュ)ファイルが使われます。
STPなどのCADデータはNURBS曲面で定義されているため、 CFDソルバーが扱えるようにまずテッセレーション(三角メッシュへの変換)を行い、 表面メッシュを作成します。 STLファイルはすでに三角メッシュ形式のため、そのまま表面メッシュの基礎として使えます。
表面メッシュができたら、車体周囲の空間を体積メッシュで埋めます。 空間メッシュは大きく境界層メッシュと体積メッシュの2種類に分けられます。
境界層メッシュは車体表面に沿って薄い層状に配置される高解像度のセル群です。 壁面近傍では流速が急激に変化する(速度勾配が大きい)ため、 この領域を十分に解像できなければ、抗力やダウンフォースの予測精度が大きく低下します。 特に空力性能を追い求める競技車両の開発では、境界層メッシュの品質が解析精度を左右します。
体積メッシュは境界層の外側を埋めるセルで、 車体から離れるほどセルサイズを大きくしてセル数を抑えます。 ただし、ウイングの後流やホイールハウスの渦構造など、 流れの変化が激しい領域にはリファインメント(局所的な細分化)を適用し、 必要な解像度を確保します。
STEP 02 ── ソルバー(計算実行)
メッシュが完成したら、ソルバーが各セルの物理量を計算します。 自動車の外部空力解析では、メッシュ数は数千万〜数億セルに上ります。 これだけの規模の連立方程式を解くには、通常のワークステーションでは計算時間が非現実的になるため、 大規模な並列計算環境が必要です。
弊社では、一般にスーパーコンピューターと呼ばれる HPC(High Performance Computing)環境を利用しています。 数百〜数千コアで並列計算を行うことで、数億セル規模の解析でも実用的な時間内に結果を得ることができます。 このスケーラブルな計算環境により、メッシュの粗さを妥協することなく、 高精度な解析をタイムリーに提供しています。
ソルバーは反復計算を繰り返しながら、各セルの速度・圧力・乱流量などを収束させていきます。 収束判定には残差(Residual)のモニタリングに加え、 抗力係数や揚力係数などの物理量の安定性も確認します。
STEP 03 ── ポスト処理(結果の可視化と評価)
ソルバーの計算が完了したら、結果を可視化し、空力性能を評価するポスト処理に移ります。 ポスト処理では、性能を評価すべき箇所の流れを視覚的に把握するために、 さまざまな手法で結果を描画します。
代表的な可視化手法としては、断面コンター(車体を横切る任意の断面で速度や圧力を色表示)、 表面コンター(車体表面に圧力係数やスキンフリクションをマッピング)、 流線(空気の流れの軌跡を可視化)などがあります。 これらの視覚情報に加え、各領域にかかる荷重(抗力・揚力・モーメント)を 部品単位で集計し、定量的な性能評価を行います。
レースカー開発におけるポスト処理の自動化: レースカーの空力開発では、確認すべき情報がパターン化されています。 特定の断面位置でのコンター、定点の圧力値、各部品の荷重集計—— これらを毎回手動で処理するのは非効率です。 そのため、ポスト処理はほぼプログラムにより自動化されており、 ソルバーの計算終了後、数分以内にレポートが自動生成される仕組みを構築しています。
まとめ
CFD空力解析は、プリ処理(メッシュ生成)、ソルバー(計算実行)、ポスト処理(可視化・評価)の 3ステップで構成されます。 ジオメトリの取り込みからメッシュ品質の作り込み、 HPCを活用した大規模計算、そして自動化されたポスト処理まで、 それぞれのステップに空力開発の知見とエンジニアリングが求められます。
SYNSETECHでは、この一連のプロセスを一貫して提供しています。 お客様のCADデータや3Dスキャンデータをお預かりし、 メッシュ設計からHPCでの解析実行、ポスト処理・レポートまでをワンストップで対応します。
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